キャビンアテンダントさんの街中リモート研修 本文

画像 キャビンアテンダントさんの街中リモート研修

キャビンアテンダントさんの街中リモート研修の本文です。

内容のご確認にご活用ください。

もちろん、文章だけでお楽しみいただけるように作っています。

――――――本文――――――

研修担当CAさん「Good morning Ladies and gentlemen.
Welcome on board Tenohira Airlines.

……はい、ドローンの映像と音声は大丈夫そうですね。

それでは皆さん、おはようございます。
キャビンアテンダント研修は今日で三日目です。
リモート研修にも慣れたでしょうか?
私はまだ慣れていなくて、ちょっぴりぎこちないかもしれませんが、どうか優しく見守ってください。

さて、今日から研修を行う場所はガラリと変わります。
今、私が立っている場所でお気づきかと思いますが、本日より、住宅地での研修です。
肌で心地よい風を感じ、街の活気のある声を聞きながら、伸び伸びと学んでいきましょう。
途中で疲れたら、皆さんの周りを見渡して、手頃なビルに座って休んで構いません。
また、研修中に何らかの妨害が入った場合、遠慮をせずに排除してください。

本日の研修は二つのことについて学んでいきます。
航空機の持ち方、そして機内アナウンスについてです。
どちらもキャビンアテンダントにとって、お客様と関わる大切な業務です。
それだけに高度な技術が求められます。

初めは大変に感じるかと思います。私もそうでした。
それでも、数をこなすことで徐々に上達していきます。
たとえうまくできなかったとしても、それは次の大きな一歩につながると信じて、前向きに取り組んで下さい。

それではさっそく始めていきます。
皆さん、映像は見えているでしょうか。
私の全身が映っていると思いますが、ちょっと映像を確認します、……はい、大丈夫ですね。

今、私が立っている場所は、いわゆる住宅地と呼ばれる場所です。
沢山の家が並んでいますが、ここで学んでいきましょう。

まずは、基本姿勢のおさらいから始めます。
私と一緒に体を動かして下さい。

初めに”気をつけ”の姿勢を作ります。
かかとを合わせ、背筋を伸ばして正面を向きます。

次に、皆さんから見て右側の足を少し持ち上げ、一歩前に踏み出します。
ここからは足元の動きが大切になりますので、一度、映像を足元のアップに切り替えます。

……はい、切り替わりましたね。

では、実際に一歩を踏み出してみましょう。

ひとまず、右側の足が持ち上がっています。
あまり高く上げすぎないようにしましょう。
映像を見るとわかりますが、一軒家よりも少し高いくらいですね。

まだ踏み降ろしてはいけません。
パンプスのかかと部分に注目して下さい。

ヒールは青い屋根の上に来ていますね。
そして、つま先は道路を超えて、茶色い屋根の少し古びた一軒家をすっぽり覆っています。
足を下ろす時は、パンプスのつま先が正面を向いているか、しっかり確認しましょう。
それでは踏み降ろしていきます。

……はい、これで完了です。
住宅地の状態に注目して下さい。

今の一歩で建物は消えて、薄い煙がモヤモヤっと周囲に広がってますね。
このように住宅地であれば、足元に目印がたくさんあります。
うまく活用することで、足の位置を調整しやすくなります。
体の動きを学ぶのに便利ですので、最初の頃は遠慮せずにどんどん活用しましょう。

ちなみに、足元の汚れが気になるかもしれませんが、心配はありません。
当社の制服は防塵・防水仕様になっていて、汚れ一つ付きません。
私共をさまたげるものは何一つありません。
では、このまま次の動作に移ります。

右側の足を一歩前に出し終えたら、次はもう片方の足を動かします。
今、前へ踏み降ろした足のかかと部分に、もう片方の足の内側を密着させるように寄せます。
相手から見て、足元がカタカナのイの字に見えるように意識しましょう。

先程の一歩で足元がモヤモヤっとしているので不安になるかもしれませんが、できるだけ足を引きずらないよう気をつけます。
ヒールで地面を何メートルも削らないように注意して、足を着地させた場所だけが沈むようにしましょう。

それでは実際に動かします。
左側の足を軽く持ち上げます。
そして、もう片方のかかとに足の内側を密着させるように寄せます。

……はい、出来たでしょうか。

それでは、全身が映るように映像を切り替えます。

さて、あとは上半身です。
おへその下を温めるように右手、左手の順に重ねます。
胸を広げ、猫背にならないようにしましょう。
表情は相手に安心感を与えるよう、常に柔らかい笑顔を意識します。

以上、基本姿勢のおさらいでした。
皆さんも、何度も練習して、体に感覚を染み込ませましょう。

次は航空機の持ち上げを学びます。
ここから少し離れた所に航空機を置いてありますので、そちらまで歩いていきます。
せっかくなので、歩き方も軽く復習しておきましょう。

まず、進行方向を向きます。
今回の私の場合、皆さんから見て右を向くことになります。

右を向いたので、脚を一歩前に出します。
ひざを曲げるのは最初だけで、太ももから足首までが一直線となるように、脚全体を前へ伸ばします。
足を下ろす際には、つま先のほうから降ろしていきます。
街全体を優しく揺らすことを意識しましょう。
このように足を降ろします。

……はい。
そうしたら、もう片方の脚も持ち上げ、先程と同様に前に伸ばして地上に降ろします。
あとはこの繰り返しです。
歩くときの表情は常に笑顔となるように意識してください。

それでは移動します」

(移動中)

研修担当CAさん「ここ、ようやく完成したんですねぇ」

(移動中)

研修担当CAさん「確か、あれは街一番のショッピングモールですけど、あぁ、残念ですねぇ」

(移動中)

研修担当CAさん「到着しました。

では皆さん、私の足元にある航空機に注目して下さい。

住宅地のど真ん中。
すっきりした広場にある、この機体です。
元々、ここには建物がたくさんありましたが、航空機が緊急着陸する場合などは、このように更地を作る必要があります。

更地の作り方については、明日以降になります。
今日は航空機の持ち上げ方を学びます。

さて、こちらは実際の運航に用いられる航空機です。
六時間前、小さいお客様が搭乗していた、フライトを終えたばかりの機体です。

実は、この機体には最先端の素材が使われています。
“人類史上最高のけんろう性を”というスローガンを元に、世界中の技術を結集して作られた合金なのです。
機関銃による1万発の防弾テストを難なく突破し、ダイナマイトの爆発には何一つ変形せず、装甲車がお豆腐に思えるほど頑丈にできています。
加工が難しいのは難点ですが、だからこそ、ビクともしない頑丈さには全幅の信頼が寄せられています。
最近では、この素材は各国の要人を乗せる専用車両にも採用されています。
ノーベル化学賞を受賞した方もおっしゃっていますが「向こう100年、この強度を超える合金が生まれることは考えにくい」と評価されるほど、とってももろい素材なんですね。
この程度の素材しか作れないのは哀れとしか言いようがありませんが、小さい皆さんの進歩ですので、温かく見守ってあげましょう。

さて、私の足元に注目して下さい。
足首にも満たない高さの、この機体。
慎重に触れないと、すぐに変形してしまいます。
指先で軽くつついたら、機体がへこんで裂け目が出来た、ということも当然あります。

息をフーっと優しく吹きかけたら、機体がどんどん曲がってしまうので、なんだか楽しくなってきた。
なんてことをしてはいけませんよ?
誰の経験談かは言いませんけどね。

それでは、さっそく機体を持ち上げてみましょう。
まずは機体の左隣に立ちます。
皆さんの映像では、正面を向いた機体の右隣に私が立つことになります。
移動する際の注意点ですが、足を運ぶ時は静かに、ゆっくりを心がけましょう。

お客様の立場になるとわかりやすいでしょう。
機内ではお客様が着席して、窓の景色を見ています。
やがて、機内がわずかに暗くなって、空から私の足が降りてきます。
窓の外が強風で吹き荒れる中、私のくるぶし全体が見えた頃に着地いたします。

もし、着地までのスピードが速いと、慌ただしい印象を与えてしまいます。
“快適な空の旅”という意識を忘れてはいけません。
足を降ろすスピードは、できるだけゆっくりを心がけましょう。

そして、着地の際もできるだけ静かにしましょう。
機内が多少揺れて、お客様が小さい不安を覚えるくらいが、最も美しい着地となります。

それでは、実際に機体の隣に移動します。
まずは片足を持ち上げます。
そして、目的地を定めてゆっくり降ろしていきます。

どの辺りに着地させるかというと、皆さんの映像から見て、機体の右側にある、この赤い屋根がいい場所ですね。
古い木造アパートのようですが、ここに足を降ろしていきます。
“ゆっくり、静かに”を意識しましょう。

……はい。
同様にもう片方の足も持ち上げます。
着地させると、周辺の住宅がビリビリと震えるので目安にするといいでしょう。
それではアパートの残った部分に足を降ろしていきます。

……はい。
これで機体の隣に移動できました。

あとは機体を持ち上げるだけです。
難しくありませんので、身構えずにリラックスして持ち上げるようにしましょう。

まずは、この場にしゃがみます。
速度は普段どおりで問題ありません。
逆に、ゆっくりですと、バランスを崩して後ろに倒れることもありますので注意してください。

しゃがみ終えたら、機体に手を伸ばして、地面と機体の間に指を通していきます。
機体の重心部分に縦の青いラインが引かれていますので目印にしましょう。
柔らかいお腹をなでるように、優しく触れていきます。
機体に指先の跡が多少残ってしまうのは仕方ないので、気にせずに触れていきましょう。

……はい。
指を通し終えると、機体の重さが手のひらに伝わってきます。
思っている以上に重くはありませんので安心して下さい。
重量で言えば、私共のパンプスの方が何倍も重いわけですからね。
あとはこのまま持ち上げて離陸です。

速すぎず、遅すぎずのスピードで持ち上げましょう。
心の中で三つ数えると、ちょうどいいスピードとなります。
今回は、実際に声に出して数えていきます。

それでは、持ち上げて離陸させてみます。

一つ、二つ、三つ。

……はい。
手のひらは、だいたい肩の高さまで持ち上げましょう。
機体の頭の部分と、自分の進行方向が同じ向きになるように調整します。

以上が機体の離陸までの手順です。

あとで今日の録画分を渡しますので、繰り返し観てください。

それでは、次の内容に移ります。
少し移動します」

(移動)

研修担当CAさん「はい。
次は機内アナウンスを学びます。
キャビンアテンダントといえば、機内アナウンス。
そのようなイメージを持たれるお客様も多くいらっしゃいます。

航空機を運びながらのアナウンスということで、初めは戸惑うことも多いでしょう。
しかし、場数を踏んでいけば、次第にリラックスしてアナウンス出来るようになります。
揺らした建物の数だけ上達する、ということを忘れないでください。

では、まずはアナウンスのお手本を見てみます。
皆さんから見て、私の右側にいるこちらの方は、皆さんの先輩です。
今から実際に披露してくれますので、アナウンスのお手本にしてください。

皆さん、運航の体勢は覚えていますね?
手のひらを肩の高さくらいまで上げて、機体と歩く方向が同じ向きになるようにします。
この状態で歩きながらアナウンスをします。

先輩の姿は見えるでしょうか?
ドローンの映像は胸から上を写すようにしていますが、自由に変更して構いません。

では、機内アナウンスのお手本です。
準備ができたら、どうぞ」

先輩CAさん「小さい皆様、本日は”手のひら航空”をご利用いただき、誠にありがとうございます。
当便は札幌発、羽田経由、函館行きでございます。
飛行時間は2時間を予定しております。

皆様の安全のために、シートベルトの着用をお願いいたします。
なお、当便の飛行中、進路をさえぎる建物がございましたら、私が片手でなぎ倒して参りますので、ご安心下さいませ。
私の手が建物に触れた瞬間に、衝撃音が機内の窓を揺らす場合もございますので、窓に近づかないようにお願いいたします。

また、陸地から陸地へと飛び移る際に、機内が多少揺れる可能性もございます。
私が着地する際には、地響きが大きく鳴り響きますので、備え付けのイヤーマフをご着用下さいませ。

最近では当機が迎撃(げいげき)されることも増えております。
流れ弾のほとんどは私に当たっておりますが、当機は高い安全性を誇ります。
世界中の技術者が結集して、長年の研究によって開発された素材を用いており、地上のいかなる衝撃にも耐えられるほど頑丈なものとなっております。
私の機嫌を損ねない限りは、皆様に危害が加わることはありませんので、ご安心下さいませ。

この先、携帯電話などの、電波を発する電子機器のご使用が禁止されます。
仮に、ご利用になられたとしても、当便の飛行により……、厳密には私の歩行により、お電話のお相手は正常な状態で通話できなくなることが予想されます。
また、電波を受信する基地局に関しましても、その数を急激に減らしており、都心部であっても圏外となるエリアが増えております。
携帯電話は、今や使える機能が無くなりつつありますが、周りの方のご迷惑となりますので、電波を発さない設定へと変更をお願いします。

間もなく、五稜郭(ごりょうかく)を通過いたします。
機内の窓から見下ろすと、私の白い手袋のはるか遠くに、星をかたどったような城郭(じょうかく)が見えてまいります。
春になると、穏やかな日差しを浴びて、堂々とした幹を彩るように、桜の花が見事に咲き誇ります。
しかし、近年は花びらをつける日数は短くなり、ピンク色の花びらは滝のように、あっという間に地面に散ってしまうのだそうです。

城郭の周囲にございます”お堀”では、手こぎボートを楽しめるようになっています。
毎年、多くの方が水上からの景色を楽しんでいらっしゃいます。
ところが、利用者の六割がボートの転覆事故に遭われているようです。
そして、城郭と周囲の街をつなぐ橋の修繕工事も、今年で100回目を迎えました。

災難が続いている原因はわかっていませんが、多くの方が安心して観光を楽しめるよう、一日も早い復旧を願っております。

約二分ほどで、五稜郭が見えてまいります。

それでは、到着までの空の旅、どうぞごゆっくり、おくつろぎ下さい」

おしまい


キャビンアテンダントさんの街中リモート研修の本文です。

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